2024年11月6日号 12面 掲載
【連載◇未来の介護を創るDX】介護業界でのAI活用 / ヤマシタ 小川邦治氏
学習データの収集で質の向上を
ケアテックの進化は、AIの進化によって大きな変革を迎えています。しかし、AIの性能が飛躍的に向上しても、まだ解決すべき課題があります。それは、AIに学習させるために必要な情報はまだまだ、完全にデジタル化されていない点です。介護の現場においては、高齢者の健康状態や生活状況に関する情報をいかに効率よくデータ化しAIに学習させるかが、介護の質を左右する重要な要素となっています。
ここで重要な役割を果たすのが、IoT(モノのインターネット)という技術です。IoTは、これまでデータ化が難しかったさまざまな情報をデジタル化する手段を提供しています。例えば、介護施設ではセンサーを用いて高齢者の睡眠状態や心拍数、体温などの生理データをリアルタイムで取得し、夜間の転倒リスクや体調変化の早期検知に活用されています。
また、AI搭載の家事支援ロボットや家電との連携も期待されています。例えば、冷蔵庫が食材の消費状況を把握し、健康に配慮した食事プランを提案したり、自動で買い物リストを作成したりすることも一部では可能になっています。さらにヤマシタでも活用しているエクサホームケアの歩行分析AI「CareWizトルト」のようなAIによる歩行パターンの解析も浸透しつつあります。
しかし、現状では全ての情報がデジタル化されているわけではありません。例えば、高齢者の感情やストレスレベルといったデータは、まだ十分にデジタル化されておらず、AIに学習させるための情報が不足しています。具体的には、顔の表情や声のトーンから感情やストレスを読み取り、介護スタッフや家族にアラートを送るシステムが考えられます。テスラが先日発表した人型ロボットは、将来的には感情データを収集し、介護現場で活躍ができるようになるかもしれません。
ビッグテックが作る汎用的なAIはWeb上の膨大なデータを活用し、人のトップレベルの能力の80%まで到達可能になっていますが、残りの20%は各業界・企業独自の良質な学習データが競争力のカギとなります。福祉用具選定のプロが持つ「体調や住環境に応じたベッド調整」などのデータが一例です。このような独自データをAIに組み込むことで、介護がより効率的で、個別化されたケアに進化していくことが期待されます。
ヤマシタ 社長室DX推進責任者 小川邦治氏
2005年早稲田大学大学院商学研究科を修了後、日本電気を経て、アクセンチュアに入社。同社では、製造流通業向けのコンサルティング業務に従事し、業務・システム改革、IT戦略立案/ 組織改革、DX推進支援など多くのプロジェクトを支援。22年12月からDX推進責任者としてヤマシタに参画し、デジタルを活用した社内改革や新規ビジネスの構想・推進などを担当。