2025年3月5日号 5面 掲載
患者の食文化守る/東京医科大学病院 宮澤靖栄養管理科長
東京医科大学病院(東京都新宿区)では、栄養管理科が食に関する患者への支援で中心的な役割を担っている。食事の種類(食種)は180種類と大学病院の中でも多い。同病院での栄養サポートや介護医療連携における栄養管理について、宮澤靖科長に聞いた。
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東京医科大学病院
宮澤靖栄養管理科長
経歴
1987年、北里大学保健衛生専門学院を卒業し、同年JA長野厚生連篠ノ井総合病院に入職。1993年、エモリー大学医学部臓器移植外科栄養・代謝サポートチームに留学し、1994年Emory Crawford Long Hospitalの栄養サポートレジデントに就任。2002年、社会医療法人近森会に入職し、臨床栄養部部長、栄養サポートセンター長を兼務。2019
年、東京医科大学病院に入職し、栄養管理科科長に就任。2024年、日本維新の会参議院比例区第7支部長に就任。
全病棟に管理栄養士
――東京医科大学病院の栄養サポートの特徴を教えてください
宮澤 当病院の病床数は904で、外来患者は1日3000人程度訪れる。重症者、癌患者が多いのが特徴だ。癌の克服においては、食事が重要な位置付けになる。2019年に科長として入職し、食種を従来の1.5倍の180種類に増やすなど改革を行ってきた。
――管理栄養士の人数は
宮澤 32名が所属し、国内の大学病院で唯一、全病棟に配置している。入院患者への栄養指導に加え、栄養指導が必要な外来患者は、1ヵ月に200名ほど。早い段階から患者に接触し、栄養・食事に係る指導はほぼ管理栄養士が担う。医師や看護師のタスクシフトにつなげている。
また、患者の5%は、多職種による栄養サポートチーム(NST)の対応を必要としている。サルコペニアやフレイルの状態の高齢者や、認知症や老人性うつ、薬などの影響で食事が摂れない人が多い。
――病棟に配属された管理栄養士の役割は
宮澤 早い段階で常食を食べてもらうことを重視している。3段階だった食形態は5段階に細分化し、患者の状態に応じてより常食に近い食事を提供できるようにした。また、ミキサー食であっても、原材料をイメージできるよう成形しているのも特色だ。
――栄養サポートで重視している点は
宮澤 それぞれの患者の家庭には、それぞれの食文化がある。病気により食事の制限が必要になっても、食文化をできる限り崩さないようにするところに、栄養士としての腕の見せ所がある。特に、高齢者に対しいつまで制限を加えていくのか、主治医とコミュニケーションをとることも必要。例えば、高齢の高血圧の患者には塩分を控えるよう指導をするが、制限により食文化が崩れ摂取量が減少してしまっては問題だ。利用者によっては柔軟に対応していくのも1つの手だ。
早期の常食提供目指す 栄養ケアステーション浸透を
――医療・介護での栄養サポートにおける連携は
宮澤 介護事業者とは、施設入所中の食生活を共有したい。血液検査など医療に係る情報は入院時の検査で得られるが、食事の情報はそうもいかない。2024年診療報酬改定では、入退院での情報共有を評価する栄養情報連携料が新設されたが、活用されていないのが実情だ。普段の食事の種類や食形態、下痢や嘔吐といった消化器症状に加え、可能であればADLの自立度を知りたい。例えば、利き手に麻痺があるがスプーンであれば食事ができるといった情報だ。
――在宅の高齢者への栄養ケアはどのように介入できますか
宮澤 診療報酬では在宅患者訪問栄養食事指導料(単一建物の患者1名の場合で530点)がある。しかし、医師の指示書が必要なうえ、管理栄養士がクリニックなど組織に所属していなければ成り立たないため、一見高く見える点数も現実的ではない。
そもそも、病気になってはじめて管理栄養士に会えるという制度にも問題がある。栄養ケアステーションがより住民に身近な存在となり、買い物のついでに栄養に関する相談ができるようになれば、医療費抑制にもつながるだろう。
――厨房の人手不足も介護施設の課題です
宮澤 当病院の厨房はクックサーブだが、25年春からは調理済み食品によるクックチルを導入予定だ。数が少なく手間のかかる、ミキサー食やきざみ食から変更していく。調理を担う人材を常食の担当に回すことで、食事の品質を上げていく。
――介護施設向けに食に関するアドバイスは
宮澤 高齢化が進み、高齢者の生活に欠かせない「食事」をより重視していく段階にきている。居住系施設は治療の場というより、生活の場に近い。利用者の笑顔のために、栄養部門の充実は軽視しないでほしい。