2025年1月15日号 1面 掲載
【コラム】介より始めよ
2025年1月15日
追って来る火の手から瓦礫の間を縫って逃げ惑い、あちこちから「助けて!誰か…助けて!」という叫び声が聞こえてくる……。あの日の光景が、匂いや手触りまで、ありありと呼び覚まされる。
精神科医の安克昌氏は、阪神淡路大震災での活動を『心の傷を癒すということ』という書籍にまとめている。同書には大震災を生き延びた患者の苦しみが生々しく綴られている。
安氏は、心の傷を癒すのは精神医学的なテクニックではない、と断ずる。あの経験をどう捉え折り合いをつけるかは、その人がこれからどう生きていくか、人生の根幹に関わる問いだという。
「回復に向けて懸命に生きる人を、敬意を持って受け入れる社会をつくることも〈心のケア〉の重大な意義ではないかと思う」と安氏は述べる。ほどなく、若くしてこの世を去った精神科医の言葉は、いつまでも色あせることはない。
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