【福祉用具サービスの真価】介護業界のDX/ヤマシタ 山下和洋氏
イノベーションと標準化の視点でとらえる
皆さんは介護DXと聞くと、センサーやAIといった最先端の技術を使ったプロダクトか、事務作業の自動化支援ツールといった業務効率化サービスのどちらを思い浮かべるでしょう。
前者は中長期的視点でみるとインパクトが大きく、介護にイノベーションを起こすプロダクトを開発・導入することは非常に重要だと言える。当社でも、エクサウィザーズと合弁会社を設立し、歩行解析AIツール「CareWiz トルト」の活用を進めたり、においで尿と便を検知する世界初の排泄ケアシステム「Helppad」の開発・販売を行うabaに出資したりしている。より世の中の注目を集めやすいのもこちらだろう。
しかし、短期的視点で見たときにインパクトが大きいのは、デジタル技術による業務効率化だと考える。福祉用具レンタルサービスは、居宅介護支援に次いで、居宅介護サービスで最も使われており、在宅介護におけるインフラになっている。当社は約10万人の利用者にサービスを提供しており、約1400人の従業員が福祉用具レンタルサービスの提供に従事している。
その現場課題の中には、最先端のテクノロジーを使わなくても、小さな改善で大きな効果を生むことができるヒントがある。それを見つけるために何より重要なのが、業務標準化だ。各人の経験に頼ったバラバラな業務フローでは、二度手間三度手間を省くことはできない。一見地味に見えるが、現場課題を的確に把握し、デジタルに落とし込んでいくサイクルを回し続けることで解決できる課題は数多くあるのだ。そして、こうした業務標準化とデジタル化によって、生産性を向上させた先には何があるのか。一つは、基本のサービスレベルの向上。そして、人にしかできない、より付加価値の高い顧客体験(CX)を提供することだと当社では考えている。
短期的視点と中長期的視点のどちらも持つことが大切なように、介護DXにおいても、フェーズに合わせて視点を切り替えながら、イノベーションと標準化の双方に取り組んでいくことが重要だとお伝えしたい。
山下和洋
株式会社ヤマシタ 代表取締役社長
2010 年慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、 株式会社ヤマシタ入社。2013 年、先代社長であった父が急逝し、25 歳の若さで代表取締役社長に就任。小学校で社会保障制度に関する卒業論文を執筆。2020 年、ダイヤモンド経営者倶楽部「Managementof the year」を受賞。先代社長は福祉用具専門相談員全体のレベル向上を目指す職能団体「ふくせん」を発起人として設立。