2025年3月12日号 7面 掲載
還暦ケアマネデビュー戦/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
緊張、ワクワクの新たな仕事
とうとう念願の居宅介護支援専門員業務を開始。と言っても先輩たちから学んでいる最中で、現在は雑用係奮闘中。そんな新人ケアマネにも驚いたことに専用のデスクとパソコンもある。今まで専用デスクなど頂いたこともない。ましてやパソコンなんて、私の経験では介護も看護も共有していた。だから「ここが北原さんのデスク」と案内された時は何だかくすぐったい気持ちになった。でもデスクの引き出しには誰かが使った文具が入っているのだろう。そんな気持ちで引き出しを開くと、何もない。言葉にこそ出しはしなかったが「私だけのデスクなんだ」と興奮して心で叫んだ。
さて空のデスクなんて今まで見たことないから、どうしたものか。先輩たちのデスクを見回すと鉛筆立てや薬の辞書など、所狭しと物があり自分の城ができている。私のデスクもいずれこのような要塞と化すのだろうか。まずはボールペン、定規、消しゴム、印鑑。還暦になり初めて使った指サック。表面上は冷静に対応しつつも緊張とワクワク感で興奮状態。
先輩が「相談の連絡をいただいたので一緒に行きましょう」と。「はい」と遅れをとらないように必死でついていく。先輩が電動自転車のキーとヘルメットを持ち駐輪場へ急ぐ。「電動自転車か……」実は以前電動に乗ったとき走り出しの勢いと、大きくて角を曲がり切れず前方から来る自転車や建物に何度も衝突しかかった経験がある。鍵をさしてもロックが外れない!そりゃ外れないわ!その鍵穴は充電用の穴。この時の先輩はきっと「おいおい」って気持ちだよね。それでも親切に鍵を入れ直して電源を入れてくれた。乗るとサドルが低く姿勢のよいおばさんケアマネのできあがり。
新規のご相談を済ませての帰り道。登坂に差し掛かると、自転車があまりに重く乗れない。充電切れたか……。先輩ははるか遠くにいて「待ってください」と叫ぶには近所迷惑も甚だしいので自転車を涼しげな表情で押しながら必死で坂を上がる。先輩に近づいて「急に重くなって、充電が無くなりましたかね」と聞くと「電源入れた?」と。さっき電源切ってないのに自動で切れるの?電源入れるとスイスイ走りました。還暦ケアマネデビュー戦は無残にもおばさんの魅力全開でした。
女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」