2025年1月15日号 1面 掲載
能登半島地震から1年 災害対応長期化「心身の疲労限界」 支援継続を
2024年1月1日に発生した能登半島地震から1年が経過した。震災に続き9月には豪雨災害に見舞われ、復興への道のりは長く険しいものになった。発災からの時間経過に伴って職員が抱えていた心身の疲労も表出しており、中長期的な視点での支援も必要とされている。
死者計514名に 復興へ道半ば
2025年1月1日16時10分、514名の帰らぬ人々へ黙とうがささげられた。この日石川県は、「令和6年能登半島地震・令和6年奥能登豪雨犠牲者追悼式」を執り行った。馳浩石川県知事は復旧・復興への道のりは長く険しいとしつつも、「復興に向けて支え合う姿、全国各地からの支援の輪が被災地の大きな希望となっている様子も目の当たりにしてきた」と述べた。
県の発表によると1月7日時点で、震災による県内の死者数は498名。また、24年9月に発生した記録的な豪雨によって、16名の人命が失われた。内閣府が24年12月24日に発表した震災被害のまとめによると、高齢者施設においては191施設が被災した。
施設半壊で休止 休職者復帰未定
社会福祉法人寿福祉会の介護老人保健施設「百寿苑」(定員104名/同輪島市)は、人的被害はなかったものの建物は中規模半壊。揺れが収まった後、職員は休む間もなく対応に追われた。電気は通っていたものの断水が生じ、「トイレ問題」が大きな課題になった。入居者についてはオムツをトイレの便座に設置することでその場をしのいだという。
「災害への備えはしていたが、これだけ破滅的な状況で、自助でできることはそう多くはなかった」と船本貴宏副施設長は回想する。24年1月8日、入居者の施設外への退避を行政に要請。災害派遣医療チーム(DMAT)及び石川県が調整をして、1月半ばまでに全ての入居者が県内外の施設へ移った。
「建物への補償もないため、この施設は今後廃止される」。100名いた職員のうち30名が退職、また30名が休職状態にあるという。「休職期間が長引くと復帰のモチベーションが低下してしまう。地域では要支援状態の人が増えている。中長期的にはどうなってしまうのか、復興の兆しはいまだに見えない」と嘆息する。
全国から支援 離職者は数名
社会福祉法人石川県社会福祉事業団が運営する特別養護老人ホームと養護老人ホーム併設型の施設「石川県鳳寿荘」(石川県能登町)では、被災により受水槽が破損し水が施設内に行き渡らなくなってしまった。ボイラーも故障し、入浴できない状況が続いた。
同施設には一般社団法人日本在宅介護協会および一般社団法人全国介護事業者協議会の訪問入浴の支援をはじめ、公益社団法人全国老人福祉施設協議会、DMAT、日本医師会災害医療チーム(JMAT)など、各種団体から支援が入った。混乱もあったが、現在は日常を取り戻しつつある。
定員100名の特養においては新規入居をストップしており、24年12月末時点の入居者数は74名と前年同期比で10名減となったが、職員の離職は2~3名にとどまった。施設長の男性は「今後、職員のモチベーション維持が大事だと思う。休める人は休む、専門機関などからメンタル面の支援を受けることも促していく」と語った。
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横のつながり 精神的支えに
大規模災害が発生した場合、その施設や地域内だけで支え合うには限界がある。そのため発災後間もない頃から、被災地には福祉・医療団体、関係者が数多く支援に向かった。こうした活動は施設利用者だけでなく職員にも安堵をもたらした。
業界団体による支援に加えて、施設間の広域的な連携も頼みの綱となる。例として湖山医療福祉グループらは広域連携のために全国各地の介護施設らが参加する、「災害福祉広域支援ネットワーク・サンダーバード」を構築しており、今回の震災でも支援に入った。このネットワークでは人的・物資的支援、要援護者支援の拠点を被災地に届け機能させる仕組み、こうした拠点を運営する人材の育成、といった機能を果たす。
自法人だけでなく、全国に頼れる存在があるという「横のつながり」は安心感をもたらし、職員の精神的な支えにもなる。
震災から1年、豪雨災害からは4ヵ月が経過しようとしている。支援のホットラインを今後も保ち続けなければならない。
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災害ストレスに組織で対処を/福島県立医科大学医学部 災害こころの医学講座瀬 藤乃理子准教授
災害発生時、介護・医療職はプロフェッショナルとして利用者の生命・生活を守る責任感から、ほとんどの人が休むことに自責感を感じる。この状態が長引くと、しばしば「バーンアウト」状態になり、心身の調子を崩してしまう。
ストレス対策は個々人にも必要だが、組織全体としての対策が最も重要。なぜなら、業務過多となっている職員には、適切に休みがとれるように勤務の調整が不可欠だということもあるが、それを認め合える職場環境も求められるからだ。自分自身が休むことには強い自責感を持ちがちだが、組織も「休む」ことに強い抵抗を示す場合がある。
例えば東日本大震災において、私事で休んだ看護師が周囲から「こんなときに現場を不在にするなんて無責任だ」と叱責を受け、人間関係に亀裂が生じるケースがあった。疲れた心身を休ませたり、被災した家族をかえりみたりすることができなければ、心身の調子を崩し、離職につながりやすい。
組織としての対策は、第一に「つらいときには上司や同僚、相談窓口などに相談し1人で抱え込まない」よう何度も繰り返しトップダウンで発信していくこと。ねぎらいあい、休養を取れる職場の雰囲気づくりが必要とされる。
災害時には、職員が自責感のために自発的に誰かに相談したり、休養を取ったりすることができにくい状況である。それを理解し、時には管理職から声をかけ、「休ませる」ことも重要。また、管理職自身の健康状態にも十分留意しなければならない。