2024年12月4日号 8面 掲載
【連載◇未来の介護を創るDX】市民開発が拓く介護業界の未来 / ヤマシタ 小川邦治氏
成功体験でITリテラシー向上
介護業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、労働力不足や業務負担軽減という長年の課題に応えるため、不可欠な取り組みとなっています。その中でも当社が推進する「市民開発」のアプローチは、現場の職員や管理者がローコード・ノーコードツールを活用して、自身のニーズに即したアプリケーションやシステムを構築できる仕組みです。
現在、市民開発はローコードツールを中心に展開されており、基本的なITリテラシー、ローコードツールの習得などシステムの理解は一定以上必要となります。ただ、既にプロのエンジニアの効率がAIで爆発的に上がる現象は起きており、例えばWebページをスクリーンショットして読み込ませるだけで、AIが同じデザインのページを作るためのソースコードを生成してくれるサービスなども登場しています。これが近い未来、プログラミング言語を知らない非エンジニアでも、自然言語(普段話している言葉)でITツールの開発ができるノーコード開発に進化する可能性を秘めています。介護業界での活用例を考えてみると、「業務記録の入力フォームを作りたい」といった要望を自然言語で伝えるだけで、自動的にフォームを設計でき、さらに、AIが既存データの分析を通じて、業務改善や新機能の提案を行うことも期待されます。
一方で、市民開発を現場に浸透させるにはいくつかの課題があります。多くの職員はデジタルツールへの抵抗感や学習時間の不足を感じており、こうした障壁を克服するためには、ITリテラシー向上の支援や継続的なサポートが不可欠です。当社では、これらの課題に対応するため、アイデアソン、ハッカソン形式の市民開発研修を実施しています。この研修では、職員が日常業務で直面する課題を持ち寄り、チームでツールを企画・設計し、プロトタイプを完成させるプロセスを通じて「自分たちにもできる」という成功体験を提供しています。既に現場社員が作成したアプリが全拠点に展開されるなど、市民開発の成果も現れ始めています。
この取り組みは、単なる業務効率化にとどまらず、介護現場の根本的な課題解決につながる新しい手段として期待されています。ゆくゆくは自然言語でのノーコード開発まで進化することを見据え、介護業界全体のDXをさらに前進させる可能性を秘めています。
ヤマシタ 社長室DX推進責任者 小川邦治氏
2005年早稲田大学大学院商学研究科を修了後、日本電気を経て、アクセンチュアに入社。同社では、製造流通業向けのコンサルティング業務に従事し、業務・システム改革、IT戦略立案/ 組織改革、DX推進支援など多くのプロジェクトを支援。22年12月からDX推進責任者としてヤマシタに参画し、デジタルを活用した社内改革や新規ビジネスの構想・推進などを担当。