2024年6月12日号  1面 掲載

空き家を福祉拠点に 相談窓口、総合事業も活用

2024年6月12日

総務省は4月30日、「令和5年住宅・土地統計調査」の速報を公表した。空き家数は増加の一途をたどっている。国土交通省によると、2030年には使用目的のない空き家が470万戸に上る見込みで、国はこれを400万戸程度に抑える方針だ。固定資産の除却を進める一方、多様な主体による活用が進むように後押しする。空き家は高齢化が進む地域に多くあり、そこでは介護予防を始めとした福祉のニーズが高い。各地では空き家を福祉に活用する事例が増えている。
 

23年時点で空き家数は900万戸で、前回調査時点の18年から51万戸増加している。空き家数はこの20年間、一貫して増加している状況だ。中でも、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く「使用目的のない空き家」は18年と比較して37万戸増の385万戸。この20年で1.82倍に増加している。
 

空き家率は基本的に、都市部と比較して地方で高い傾向にある。都道府県別にみると、住宅総数に占める使用目的のない空き家の割合が最も高いのが鹿児島県で13.6%、次いで高知県が12.9%、徳島県及び愛媛県が12.2%で全国平均5.9%の倍以上。地方においては住民の高齢化が進んでおり、先の4県の高齢化率は33.1~35.9%(21年時点)と、日本の平均値28%を上回る。

 

 

出所:総務省

 

 

民間で管理促進 規制合理化も

 

「市区町村ではマンパワー不足によって、所有者への働きかけが十分にできておらず、所有者が活用・管理について相談できる環境が整っていない。また、専門的な知識を持つ人材がいないことも課題」(国土交通省 住宅総合整備課 企画専門官 窪田悦郎氏)
 

この問題に対処するため、昨年12月、改正版「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、「空家等管理活用支援法人」制度が創設された。これは、市区町村がNPO法人、社団法人、企業などを指定し、当該法人が相談対応や所有者と活用希望者などとのマッチングを担う制度だ。国交省においては、空家等管理活用支援法人が行う業務に対して2分の1を補助することとし、活動を後押ししている。 なお、使用目的のない空き家の7割は戸建て住宅だ。用途規制などの合理化も図り活用しやすくしている。

 

 

高齢化地域課題 神奈川県山北駅前活性化
 

国交省は、「空き家対策モデル事業」を16年から実施。NPO法人や民間事業者が行うモデル性の高い空き家活用に対して調査や活用にかかる費用の一部を補助している。
 

23年度にモデル事業を提案した一般社団法人かながわ福祉居住推進機構(横浜市)は、神奈川県山北町の関係課及び地域住民と連携しながら空き家対策を進めている。
 

同法人は、高齢者への住み替え相談・支援、福祉関係者に向けた研修、空き家管理や不動産の紹介・売買などの宅建事業を行っている。
 

山北町は人口約9300人(6月1日時点)の町で、毎年200人ほど人口が減少。高齢化率は40%を超えた。国交省のモデル事業においては、駅前商店街の活性化をテーマに、アンケート調査による空き家の掘り起こしと地域ニーズの把握、空き家活用基本計画の策定を行った。
 

調査の結果、元時計店など、活用可能な物件を3件確保。住民の高齢化もあり、活用方法については、生活の困りごとを相談できる窓口や多世代交流・健康づくりの場のニーズが高かった。山北町、関係団体などと協議した結果、社会福祉士、介護支援専門員をはじめとした専門職などとつながることができるよろず相談窓口「ふらっと山北」、地域食堂やカルチャースクール、介護予防の場を提供する「ほっとスペース山北」などを整備する計画となった。24年中に物件を改修し、活用する運営主体を公募する予定だ。
 

「現在、福祉においてアウトリーチ型の支援が求められている。空き家を活用することにより、地域住民に一番近いところに気軽に訪問できる相談窓口を開設することができる」と小谷與志郎顧問は話す。

 

 

介護予防で実践 運営コスト低減
 

厚生労働省は総合事業の介護予防・生活支援サービスにおいて、1回あたりの単位数を細かく設定し保険者ごとに柔軟に定めることを可能にするなど多様な主体の参画を促している。空き家が増加する地域は高齢化率が高く、総合事業を活用した介護予防サービスの展開が期待される。
 

MOREGROUP(宮崎県小林市)はシニア専門ジムandMOREを運営。このジムでは総合事業の通所型サービスAを提供している。店舗は元倉庫を改装した物件で、月の賃料は約8万円だ。総合事業のため少ない人員で運営できることもあり、月の売上150万円に対し支出は90万円程度と黒字になっている。
 

 

MOREGROUPでは空き家で介護予防サービスを提供

 

 

こうした好事例を目指し、マッチングに取り組む自治体・企業は増えている。一方で、マッチング成約率の低迷に悩むケースは多い。「空き家だから」安く借りたい事業者と、「空き家でも」相場を落としたくない空き家所有者との認識の齟齬をいかに改善していくかも重要だ。

 

 

 

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