日本生命、ニチイ買収へ 取得額2100億円、生保最大手が介護本格参入

2023年12月4日

日本生命(大阪市)は11月28日、介護業界で売上最大規模のニチイホールディングス(東京都千代田区)を買収することで合意したと発表した。投資ファンドのベインキャピタルが間接的に保有するファンドからニチイHD株の99.6%を取得する計画。買収価格は約2100億円になるとみられる。2019年、ニチイHDは創業者の寺田明彦氏が死去した後、20年11月にMBOにより非公開化。ベインキャピタル主導で経営改革を進めていた。

 

 

福祉施設・高齢者住宅Database・介護保険居宅サービスDatabase(高齢者住宅新聞)

 

 

訪介は拠点最多 居住系では4位

 

ニチイHDは傘下に介護・医療事務・保育などを手掛けるニチイ学館、介護付有料老人ホームが主軸のニチイケアパレスを持つ。

 

高齢者住宅新聞8月の「福祉施設・高齢者住宅定員数ランキング」では、有料老人ホーム、グループホームなどを含めた居住系施設だけで484棟・1万6015室であり、SOMPOケア、ベネッセスタイルケア、学研グループに次ぐ4位。ただ、同社は在宅系サービスのラインナップが幅広い。介護施設調査のTRデータテクノロジーによれば、拠点数は訪問介護1504、デイサービス451、居宅介護支援314などを全国各地に持つ総合介護会社だ。

 

ベイン傘下になって以降、対法人向けの福祉用具卸を切り離すなど収益部門に経営資源を集中させてきた。ある幹部はMBO以前に比べ「権限移譲が進み自由度が高まった」と話す。

 

建築費高騰、人材採用難などから新設は控え、M&Aに舵を切り拠点を拡大。手薄だった関西エリアではポプラコーポレーション、西日本ヘルスケア、プラティアなどを傘下に収め、主力の介護付だけではなく住宅型有料老人ホームの運営にも乗り出していた。

 

日本生命とニチイは1999年より一部事業で協力関係にあった。日生が関わる介護事業では、自立向けホームを2棟運営する財団法人に、社会福祉法人聖隷福祉事業団とともに資金拠出していた程度で目立った動きはなかった。

 

今回、ニチイ職員は報道を通じて本件を知るところとなったが、相手が日生ということで大きな動揺は見られないという。生命保険業界最大手であり豊富な資金力がある日生が、介護業界売上高トップのニチイを手中に収めたことで、今後の展開が業界に与える影響も少なくなさそうだ。

 

 

 

 

異業種の再参入 M&Aは活発に

 

介護業界は案件規模では異業種に劣るが、近年のM&A件数は圧倒的に多い。小粒なM&Aは水面下で進んでおり、大手中堅でもファンドが保有する企業の出口は注目だ。

 

先述のランキング30位以内では、11位のHITOWAケアサービス(HITOWAホールディングス)がポラリス・キャピタルグループ、18位のヴァティーが日本産業推進機構、26位のSOYOKAZE(旧ユニマット リタイアメント・コミュニティ)と27位のツクイがともにMBKパートナーズの傘下にある。

 

もちろん株式上場という選択肢もあるが、これら準大手・中堅クラスの行方により業界勢力図は大きく変わってくる。

 

11月にはランキング2位のベネッセスタイルケアを有するベネッセホールディングスがMBOにより非公開化すると発表。TOBが成立すれば2月にも上場廃止となる。TOBにはスウェーデンのファンドが支援に入り、非公開化後の議決権比率は創業家と五分にするという。

 

近年、業界再編を主導していたのは投資ファンドや、すでに参入を果たし拡大していたSOMPO、ALSOKに加え、ソラスト、創生会グループら大手介護事業者だった。異業種による参入が細っていた中での今回のM&Aは、新たな業界の動きとなるのか。静観していた大手小売りによる大型買収の噂も絶えない。

 

介護業界は大手に収斂していったとしても、他業界に見られるような上位複数社に集約されることはないだろう。血管のように全国各地を支える介護事業者の力は必要不可欠だ。それでも「規模の経済」による力が事業環境を大きく変える可能性は否めない。業界に身を置く経営者は他人事とは思わずにその動きを注視すべきだ。

 

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